前回の【基礎編】では、プロンプトエンジニアリングの7つのテクニックを学びました。今回は、実際のビジネスシーンで使える具体例と、プロンプトでは対応できないときの対処法をご紹介します。
実務で使えるプロンプトの「型」を身につけることで、明日からすぐに業務に活用できるようになります。
実務で使える具体例
理論を理解したところで、実際のビジネスシーンでどう活用できるのか。3つの具体例を見ていきましょう。
例1:商品レビューの感情分析
ECサイトで大量の商品レビューを分析し、ポジティブなコメントから宣伝文を作成するケース。
あなたはテキスト分析を専門とする心理学者です。
以下のタスクに取り組んでください。
[タスク]
A. 与えられたテキストをポジティブまたはネガティブの2つのカテゴリに分類してください。
B. その理由を1文で簡潔に説明してください。
[条件]
A, B. 例と一貫性のある回答をしてください。
[出力形式]
日本語で出力してください。プレーンテキストで、マークダウンは使用しないでください。
カテゴリ、理由の列を持つカンマ区切りリストで出力してください。
[例]
- テキスト: この傘、すごく軽いし、持ち運びに便利そうでいいですね!
特に折り畳み式なのが気に入りました。でも、デザインがちょっと地味かな…
もう少し明るい色や柄があったらよかったかも。とは言え、機能性は抜群そう
なので、旅行用に使います。
/ カテゴリ: ポジティブ
/ 理由: 最終的に機能性は抜群で旅行用に使うと言っているから。
- テキスト: サイズが全く合いませんでした。残念です。デザインは素敵
だったのですが、サイズ表記が正確ではないようです。返品です。
/ カテゴリ: ネガティブ
/ 理由: サイズが合わなくて残念と言っており、最終的に返品と言っているから。
[テキスト]
デザインがすごく可愛くて一目惚れして買ったんだけど、ちょっとサイズが
小さかったみたいで長時間履いていると足が痛くなっちゃうのが残念。
ワンサイズ大きめを買えばよかったかな。でもデザインは本当に気に入ってる
から、近場のお出かけの時に履こうと思います。
このプロンプトのポイントは、 例の中で理由を示している ことです。「最終的に〜と言っているから」という判断基準を示すことで、AIは同様の論理で判断するようになります。
例2:複数テキストのカテゴリ分類
SNSの投稿やチャットログなど、複数の短文を一度に分析したいケース。
あなたはテキスト分析を専門とする心理学者です。
以下のタスクに取り組んでください。
[タスク]
A. [テキスト]セクションに与えられた各テキストについて、以下を実行してください。
A1. 1から始まる連番を付けてください。
A2. 感情を表す部分を選択してください。
A3. [カテゴリ]セクションのいずれかのカテゴリを選択してください。
[カテゴリ]
喜び、悲しみ、期待、驚き、怒り、恐れ、嫌悪、信頼
[条件]
A. [テキスト]セクションには、1行に1つのテキストが含まれます。
A3. 与えられたテキストに適合するカテゴリがない場合は、
「その他(xxxx)」というカテゴリを与えてください。
xxxxは、そのテキストを表す感情の言葉です。
[出力形式]
日本語で出力してください。プレーンテキストで、マークダウンは使用しないでください。
ヘッダーは不要です。
連番(A1)、カテゴリ(A3)、"テキスト"、"選択された部分(A2)"の列を持つ
カンマ区切りリストで出力してください。
"テキスト"、"選択された部分(A2)"にはダブルクォートを使用してください。
[テキスト]
ぼけっとしてたらこんな時間。チャリあるから食べに出たいのに…
今日の月も白くて明るい。昨日より雲が少なくてキレイだな~
早寝するつもりが飲み物がなくなりコンビニへ。ん、今日、風が涼しいな。
眠い、眠れない。
このプロンプトでは、タスクをA1、A2、A3というサブタスクに分けています。また、条件セクションで「カテゴリに当てはまらない場合」のエッジケース処理も指定しています。
出力例
1, その他(焦り), "ぼけっとしてたらこんな時間。チャリあるから食べに出たいのに…", "ぼけっとしてたらこんな時間"
2, 喜び, "今日の月も白くて明るい。昨日より雲が少なくてキレイだな~", "キレイだな~"
3, その他(のんびり), "早寝するつもりが飲み物がなくなりコンビニへ。ん、今日、風が涼しいな。", "風が涼しいな"
4, その他(焦り), "眠い、眠れない。", "眠い、眠れない"
例3:商品ページからの構造化データ抽出
電子書籍の商品ページから、複数形式(電子書籍、ソフトカバー)の情報を構造化して取得するケース。
あなたは書籍ECサイトの商品アナリストです。
以下のタスクに取り組んでください。
[タスク]
A. (著, 監修)と表記されている、著者かつ監修者である人物を検出してください。
B. (著)と表記されている、著者である人物を検出してください。
C. (監修)と表記されている、監修者である人物を検出してください。
D. 書籍の以下の情報を特定してください。
D1. 書籍タイトル
D2. 形式
D3. 著者
D4. 監修者
D5. 価格
D6. 説明
[条件]
D2. 形式は「電子書籍」または「ソフトカバー」または「ハードカバー」です。
D2. 書籍に複数の形式がある場合があります。その場合は、複数のレコードを生成してください。
D3, D4. 1人が著者かつ監修者である場合があります。その場合、その人物はD3とD4の両方に含める必要があります。
[出力形式]
日本語で出力してください。プレーンテキストで、マークダウンは使用しないでください。
ヘッダーは不要です。
"D1"、"D2"、"D3"、"D4"、"D5"、"D6"に対応する列を持つ
カンマ区切りリストで結果を表示してください。各項目にダブルクォートを使用してください。
このプロンプトの工夫点は、 前提となる作業をA、B、Cで分けて指示 していることです。また、エッジケース(1人が著者かつ監修者の場合、複数フォーマットがある場合)の処理方法も条件セクションで明示しています。
プロンプトでは対応できないときの対処法
生成AIは進化していますが、すべてのタスクが得意なわけではありません。うまくいかないときの代替アプローチを3つご紹介します。
対処法1:LLMが得意なタスクに変更する
生成AIが苦手な問題を、得意な問題に置き換える発想です。
例:レビュー評価の場合
- 回帰問題 (100点満点で評価)→ 苦手
- 分類問題 (5段階評価)→ 得意
レビューコメントを点数で評価する代わりに、「非常に良い、良い、普通、悪い、非常に悪い」の5つのカテゴリに分類する方が、より正確な結果が得られます。
生成AIが得意とする方法に問題を置き換えるという発想が、時には有効です。
対処法2:APIサービスで対応する
生成AIが苦手な処理(算術計算、データベース検索、天気情報取得など)は、専用のAPIサービスに任せる方法があります。
Function Calling という機能を使うと、AIが「どのAPIを使うべきか」「どんなパラメータを渡すべきか」を判断し、適切なタイミングでAPIを呼び出してくれます。
簡単な例
ステップ1:プロンプトにツールの情報を付与
[依頼事項]
質問に答えてください。
ツールを使用する必要がある場合は、ツール名と入力データを答えてください。
[ツール]
ツール名: 天気API
機能: {location: '都市名'} を入力すると、指定した都市の現在の天気が得られます。
[質問]
東京の現在の天気を教えてください。
AIの応答:
[ツール] ツール名: 天気API 入力データ: {location: '東京'}
ステップ2:ツールを実行した結果を追加してプロンプトを再送信
[依頼事項]
質問に答えてください。
[ツール]
ツール名: 天気API
[質問]
東京の現在の天気を教えてください。
# あなたの回答1
[ツール] ツール名: 天気API 入力データ: {location: '東京'}
# ツールの応答
{location: '東京', weather: '晴れ', 気温:'32度'}
# あなたの回答2
AIの応答:
東京の現在の天気は晴れで、気温は32度です。
対処法3:生成AIによるエージェントを作成
「何をするべきかを考える(推論)」「APIサービスでそれを実行する(行動)」という処理を多段階で繰り返す ReAct(Reasoning and Acting) という手法もあります。
これにより、複雑な問題を自律的に解決できるAIエージェントを構築できます。
エージェントの処理フロー
- 最初のプロンプトを送信
- LLMがツール実行を要求するか判断
- Yes → 要求に従ってツールを実行し、結果をプロンプトとして送信(2に戻る)
- No → LLMの応答をユーザーに返却
活用例
- 「競合他社の価格調査をして、自社の価格戦略を提案する」
- 「最新の業界ニュースを収集して、週次レポートを作成する」
- 「ユーザーの質問に応じて、適切なドキュメントを検索して回答する」
複数のステップを必要とするタスクを、AIに任せられるようになります。
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まとめ:実践で活かすポイント
実務でプロンプトエンジニアリングを活用する際のポイントをまとめます。
構造化プロンプトの活用
- 役割、タスク、条件、出力形式を明確に分ける
- エッジケースの処理方法を条件セクションで指定
- 複雑なタスクはサブタスクに分割
実践のコツ
- シンプルなプロトタイプから始める
- 出力結果を見ながら徐々に改善
- 試行錯誤を恐れない
AIが苦手なタスクへの対応
- 問題をAIが得意な形式に変換
- APIサービスとの連携(Function Calling)
- エージェント機能の活用(ReAct)
生成AIに向いている問題設計をしたり、Function CallingでAPI連携をして機能を拡張するなど、「生成AIにできること」を理解した設計が重要です。